長期滞在シニアのバリ島生活ガイド

バリ日本人会シニア部

はじめに

バリ島に在留する日本人は約5千人といわれていますが、それぞれの在留のかたちは多様です。大きく内訳をみると二つあります。ひとつは日本からの現地法人などに働く人たち、もう一つのグループは永年働き続け、定年となった後の世界をバリ島に求める夢多きシニア層です。このガイドの本旨は、このリタイヤー組シニアへの生活ガイドです。
これらの人々は、バリ島に降り立ったその日から衣食住の調達や日用品の買い物、床屋へも行かねばなりません。行くには交通手段も必要だし、何事にも不案内で言葉の壁もあり、バリのゲートで途方に暮れるかもしれません。
この関門を越え、安全、安心を確保しつつ、より多くの生きがいを得るノウハウは、日々の暮らしのなかにあります。
バリ日本人会シニア部は、活動の柱に「生活ネット」を掲げ、シニア全員が、このバリ島で物心の幸せを得て、楽しい日々が過ごせる相互援助活動を目ざしています。
いまバリ日本人会シニア部は、会員の生きがいを生涯学習に求め、4つのいきいき教室を主宰していますので、いつでもおたずねください。
① やさしいシニアのインドネシア語教室 ② 英会話教室
③ ソシアルダンス教室  ④ よさこい鳴子おどり道場

バリでの新生活
1、自然

日本には春夏秋冬があり、これが魅力的な日本情緒でしたが、バリには四季もなければ二十四節気もありません。実に味気ないと思うでしょうが、四季の変化が健康に及ぼす影響を考えれば、実は四季がないことは、あながち悪いことではありません。
日本では、夏冬の気温の違いが30度を超え、この差は体に良かろうはずがありません。ここバリでは、比較的高温ですが、年中気温差がないので体への負担が少なく、四方が海なので極端に高い気温にはならないのが好ましいことです。麗峯アグン山を眺めるこのバリ島は、あなたにユートピアの世界をもたらすでしょう。

2、バリを楽しむ
バリの日常は神と共に
  • 服飾
    現地女性の正装は、クバヤ です。色とりどりの手編みレースの上着と腰のサロンにカラフルな帯を締めた装いです。男性は、場に応じて白または黒のバテックの上着にサロン、頭にデスタールを巻きます。日々の生活では、簡易な腰帯だけで日に数回、チャナン(お花)を捧げて線香を焚きます。この花は庭のプルメリアなどです。
  • 芸能
    祭礼や儀式に使われる伝統的奉納芸能の一つとして伝承されてきました。レゴンダンス・バロンダンス・ケチャダンスが有名です。ガムランの響きで満月の夜に見せる踊りの幽玄さは、ほかに例えようがありません。演奏では、竹を使ったジェゴグやグランタン(竹ガムラン)があります。竹笛や太鼓も重要な楽器です。
  • 絵画
    絵画も祭礼や儀式の奉納芸術です。歴史を伝承した技法で、たとえばバリ島クルンクン村のワヤンスタイルでは、キャンバスに米の粉を塗りつめ、絵の具には煤(すす)、灰、粘土、植物を使っていました。バリの村ごとに、それぞれ独特な手法が伝承されています。
    これらは通称バリアートと呼ばれ、ウブドの各ギャラリーでも観賞できます。

  • 会席食では豚を素材とする、バビグリン・ラワル・サテが中心ですが、里・郷ごとに伝統の家郷料理を賞味できます。また、樹液を発酵させた地ビールのトア、日本の焼酎にあたるアラックはお清めの酒です。添えられる果物(ブア)には、日本でお目にかかれない、シャシャップ、ランブタン、サラック、ナンカ、釈迦帽、ドリアン、ジャンブがあります。
3、風土
  • インドネシア共和国
    330年間もオランダの植民地でしたが、1942年に日本軍が侵入しオランダを駆逐しました。日本敗戦直後、独立運動家スカルノは、連合軍として再上陸したオランダとの4年にわたる長期戦を制し、インドネシア共和国を建国しました。アセアン各国では、人民の血の戦いで独立を勝ち取ったのはこの国だけです。毎年8月17日が独立記念日(ムルデカ)です。
    インドネシアは1万3,466もの大小の島により構成され、2億5,000万人を超える世界第4位の人口をもち、年々人口は増えています。
    ここバリ島は、人口約422万人で、ヒンドゥー教に根ざす地域です。
    インドネシアは軍隊・軍備をもつ国で、バリにも屯所があります。国防にあたる兵は志願制となっています。
  • 現地人を知る
    この国の人々の民度は、ほぼ日本人並です。国民所得も上昇中で、衣食住も満ち足り、医療や教育水準もあがって途上国とはいえ、国際的な経済への評価は安定しています。
    国是として建国5原則(バンチャシラ)を標榜し、一つの言語、一つの民族をうたって一国の団結は共有されていますが、多民族国家なので人種の違い、宗教のちがいによる倫理感はそれぞれ異なります。日本にはないこの事情を、心に留め置く必要がありそうです。
    公用言語は、マライ語源のインドネシア語ですが、各地に独自の民族語があり、バリはバリ語が、ジャワにはジャワ語が併用されます。
  • 在留邦人の立場
    私たちは外国人であり、この国の制度の中では、ビザにより指定期間内だけ在留できる立場にすぎませんが、この国の法を遵守し、現地人とは友好的に暮らしましょう。
    義務教育の教科書では、戦時の日本の軍政などへの歴史認識も教えていますが、殊さら歴史観が公に議論されたことはありません。多くのバリ住民は、日本人などの在留を受容しているので、相互の友好とふだんの喜怒哀楽が共有できるでしょう。
    一般に日本人は裕福とみられ、悪意の人にねらわれやすいので、甘言に警戒し物心の担
    保を確保することが求められます。
  • バリの宗教
    国民の大多数はスラム教徒ですが、イスラム教は国教ではありません。国教がないことは多宗教に寛容なこの国の優れた点です。国民は必ず自分の信仰宗教を登録する義務があります。
    バリ島はバリ州にあり、バリで多数を占めるヒンズー教徒の祭日は、バリカレンダーで国の宗教省が告示する日の他に、州独自の祭日が決められます。そもそも仏教はヒンズー教から見れば、その亜流とも考えられ、バリの倫理は仏教と類似し、日本人には住みやすい宗教上の背景があります。
  • 地域共同体(バンジャール)
    日本の以前の「となりぐみ」のような縦の組織です。行政組織の末端にあり、ヒンズー教がらみで住民に密着し、地域の危機管理、ゴミ収集から葬儀や祭祀、地域の清掃、犬の予防注射、果ては金融まで手掛けています。ここでも外国人を住民として受け入れているので、地域の一員として役割を共有しましょう。
    私たちが必要に応じて関係する役所には、入国管理局のほかに、チャタタンシビル(住民登録事務所)とその出先のカントル・ルラがあり、そしてこのバンジャールが身近に置かれています。
  • 医療
    バリにも近年国民健康保険制度ができ、長期滞在ビザ所有の日本人が加入できます。医薬分業なので、薬は処方箋で薬局(アポテック)で買います。保険加入者は、診察・薬とも保険適用範囲内は無料です。
    日本人スタッフのいる医療機関は、たけのこ診療所、スルヤウサダ、BIMCホスピタル、バリシロアム、共愛ヘルスケアです。また公立病院にはサンラ、国立の陸軍病院がありますが、日本人スタッフはいません。救急車、消防車などは、クライシスセンターが準備していますが、日本語不可なので、必要時は総領事館の情報を求めるのがよいでしょう。
  • 日用品の調達
    スーパーマーケットが、大小多数あります。24時間のコンビニ(ミニマート、サークルK等々)もあり不自由しません。日本人などをターゲットにした、パパイヤマート(クタ及びレノン)は、日本食材を販売しているし、希望の食材はほぼ調達できます。
    嗜好品では、酒がイスラム教で禁じられていますが、バリではビール、ウイスキー、ワインなどが自由に売られています。煙草は多種類売られ、品に不足はありません。
  • 金融
    パスポ-トの提示で預金通帳や定期預金が開設できますが、銀行により取扱いが異なります。年金を日本から振込給付してもらうためには、口座開設が必須です。また両替は看板レートに惑わされず、町の小店舗での衝動換えより(詐欺的な店もある)、銀行または、大手公認両替所で両替しましょう。
  • 郵便と通関
    入国時の帯同持ち込みを除いて日本からの物品(食品・薬など)の郵送、入国(移送)は、個人輸入に属し免許が必要です。また中古品(衣類など)は、別の法律で持ち込みが制限されています。常備薬の持ち込みにも、英語の処方箋のコピーの提示が必要です。
    2017年に、郵送物品が届かない、または受け取れない事例が多く発生しました。当局は、従来法の緩やかな運用をしていたが、厳密な運用に踏み切ったと説明しています。
  • 交通機関
    バリに鉄道はありません。幹線道路(バイパス)には、公共バスのサルバギタが運行されています。要所に停留所があり定価で利用できます。
    タクシーは、いつでもどこでも多数あり、電話で呼ぶこともできます。
    近年登場したアプリタクシーは、従来のタクシーとは異なるもので、スマートホンのアプリ操作やメールで呼びます。ウーベルとグラブとゴジェック(バイク同乗、車)があり、普通のタクシーより安価です。
  • 車の運転と所有
    国際免許は正式に通用する免許外ですが、バリの路上では事実上通用しています。
    一般には試験場・免許事務所でこの国の運転免許をとります。免許には二輪(SIM-C)と四輪(SIM-A)があります。バリには四輪車教習所はなく私業による路上教習です。実技試験、筆記(英語可)で運転免許を取得します。また、日本の免許証があれば試験を免除されることもあります。4輪2輪共に、5年以上滞在者ビザ(キタップ)の人は自己名義で所有できます。なお、ほとんどの車・二輪車は日本車です。年1回の車検制度、民間車両保険制度がありますが、自賠責はありません。また交通事故にリスクは否定できないので、傷害保険加入を検討しましょう。
  • 交通規則
    車は、日本と同様に左側通行、信号は少なく日本と異なる回転式なので青信号で直進しますが、向いで信号待ちの反対側車線は同時発進とはなりません。無信号の場合は早い者勝ちが原則です。また左折専用の信号がない場合は常時左折できます。路上では自動二輪の無免許運転も多く、横斷歩道も未整備なので、運転には細心の注意が必要です。
    事故も多く、その場の示談程度のものから死亡事故まで多様です。重大事故には刑事罰が科せられます。特に酒気おび運転は禁止されています。また、要所で警察官が交通の監視にあたっています。
  • 道路
    道路行政では、幹線道路の整備が進む割に、一般道路は狭いし路面の凹凸が多く安全面で支障があるのが実態です。行政は主に観光道路を優先して整備しているので生活道路は、質的に差があります。裏通りには無舗装道もあります。
    道路標識はほぼ日本と同じです。一方通行路が多ので、スマートホンでグーグルのマップアプリによる日本語のカーナビを活用して、一方通行個所のホロをしてください。
    また、三叉路やロータリーが多いのもバリの特徴です。
  • 犯罪
    犯罪には、凶悪犯からスリ、両替のトラブルまで枚挙にいとまがありません。総領事館から折にふれて犯罪情報がくるので、注視しましょう。
    流しの犯行に対しては近隣の住民とタイアップして相互援助ができるよう努めましょう。
    どろぼうは、監視役、連絡役、実行役と役わりを分担しているケース多いので、新築現場の2階の作業員などには注意し、お出かけのときは、門の外側施錠は避け、手入れ窓からの内側から施錠とし、隣家に監視を頼む体制を作ってください。
    犯罪では、近年ふりこめサギも多くなりました。また、当局の薬物取締まりは厳しく、違反には極刑をも適用すると警告しています。
  • 住居
    住宅には、戸建て、長屋、集合、簡易(コス)、ビラ、ホテルなどいろいろであります。
    契約は単年~数年、長期などですが、自分の事情や在留ビザの状況により選択します。長期契約で、一括払い済みの借家は中途解約のとき、協議によりオーバーコントラ(また貸し)ができることもあります。支払は1回払い、毎月払いなど交渉によります。
    原則として外国人は土地所有はできません。かといって現地人の名義借りで不動産を調達するのは冒険です。借地に新築するような場合でも、建物保存登記の制度がなく名義保全はできません。これら法の手続きは、司法書士(ノタリス)に委託します。
    また日本のような建築確認申請の制度はありません。
  • 上・下水
    都市部は水道、下水道が設備されていますがぜい弱です。多くは堀井戸であり、水洗トイレは浄化槽です。別に飲料水はミネラルウオーターを購入します。なお、炊事用の燃料は主に電気とLPGです。
    治山治水は不完全で、生活排水は水田の水路などを利用しますが、排水能力は劣ります。農事には3毛作の稲作とスイカの輪作があり、水路は農事優先となります。
  • 電力
    電力の供給はほぼ充足していますが、停電が頻発するので、懐中電灯やろうそくの常備が必要です。なお、電気料は指定のスーパーマーケットなどで、事前にプルサー(切符)を買うか、あるいは月ごとに銀行ATMで登録番号でふりこみます。
  • ゴミ処理
    バリでは、行政も住民もゴミへの危機感が乏しいようです。市部はバンジャールが週2回程度の巡回を委託してゴミ収集を行っていますが、田舎にはありません。
    識者は、先ずは行政が学校教育などを通じて、地元河川を大切にし、ゴミを捨てないよう人々の意識を高める活動をすべきであり、ゴミ処理をインフラと位置つけ、ゴミをただ埋めるだけでなく焼却場を建設すべきと指摘しています。
  • バリでの終末
    バリで終末を迎えたときは、国公立病院などの施設内有料特定場で通夜・葬儀が可能です。自宅死の場合は、病院に医師の派遣を依頼して死亡診断書の交付を受けます。
    また陸軍病院には施設内有料齋場があります。ここは焼却、散骨までセットで受注しています。終末処理の情報は総領事館に求めるのがよいでしょう。
    なお、ヒンズー教徒のバリ人は、海・川での散骨が原則であり、焼却待ちの仮埋葬墓標以外に墓はありません。
4、バリ人の時間感覚
(光陰如牛歩)

現地人の時間感覚は私たちと異なります。多くのカンプン(田舎)では、時間に対する観念が希薄で、時間とは時の流れではなく、暇(時間)のかたまりにすぎないようです。
時間がペイできる環境になかったからです。しかし市部では労働者の増加と最低賃金制の導入で、時間賃金への感覚も鋭敏になり、時への感覚が変わってきています。

5、日本出国
日本の住民登録

移住にあたって日本の住民登録を抹消したとき、その後年金などの送金に対して、日本の税法により相当%の所得税が課せられます(厚年は申請により税免除)。
また、逆に住民登録を日本に残存した場合は、書類上は日本に住んでいる状態が続くことになるので、住民税、国保や介護保険料を課せられます。また不在中の住所設定も必要になります。このとき年金の現況報告は不要ですが、国税の確定申告が必要な人は郵送で申告します。日本国政選挙にバリで投票するためには、「在外選挙人証」を取得して日本を出国します。また、病人や8ヶ月上の妊婦の航空機での移送は、医師の同乗が必要です。